本研究プロジェクトの最終年度にあたり、ツナ・チトクロムcを4つの断片ペプチド鎖に分離・精製し、それらの断片ペプチド鎖間の複合体形成反応を研究した。これまではペプチド断片鎖(1-44)H [Hはヘムを含むことを意味する]と(45-103)鎖間の複合体形成を研究してきたが、さらにこの断片を(1-21)H、(22-44)、(45-66)と(67-103)の4断片に分断した。(1-21)Hと(45-103)鎖を混合すると220nm付近のCDスペクトルは天然蛋白質と同程度まで回復しており、(1-44)H・(45-103)複合体と同様、N端、C端へリックス間の相互作用が構造安定性に大きく寄与する事が分かった。複合体形成に伴うエンタルピー変化ΔH、および結合反応定数を滴定型カロリメータによって詳細に測定した結果、ΔHは-92kJ/molであった。これは(1-44)Hと(45-103)複合体形成時のΔH=-146kJ/molと比較すると、主にΩループ領域(残基18-33)の欠損によって約50kJ/mol程度の相互作用エネルギーが喪失した。一方、(1-44)Hと(67-103)断片を混合すると、総合定数はそれほど減少しないにもかかわらず、結合エンタルピーΔHが大きく減少することが明らかになった(ΔH=-46kJ/mol)。すなわち、(1-44)H・(67-103)複合体においてはエントロピー的に複合体が保持されていることを物語っている。、また220nm近傍のCDスペクトルも大きく減少し、N端、C端へリックス間の相互作用もかなり喪失したことを意味している。(1-44)H断片鎖に存在するHis26がヘムの非天然の第6配位子となっていることが400nmおよび620nmの吸収スペクトル確認された。この非天然リガンド状態がΩループとC端領域との疎水性相互作用を生み出し、非天然構造の複合体を形成していると思われる。Ωループ領域を取り除いた(1-21)Hと(67-103)断片鎖では全く複合体形成が検出できなかった事実は複合体に対する上述のモデルを支持している。
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