ラットアルドラーゼB(AldB)遺伝子のプロモーター領域は肝細胞特異的な転写の制御領域としてだけでなく、この遺伝子が不活化している肝ガン細胞では複製開始領域としての機能も持つ。細胞分化におけるこの制御遺伝子領域の機能の変換の意味を探るために、複製開始に必要な制御DNAエレメントの同定とその機能の解析を行った。その結果、(1)複製開始に必要なDNAエレメントと転写制御に必要なエレメントはオーバーラップしており、ldB遺伝子を転写している細胞では複製開始が他の領域から起こる、(2)複製開始に必要なDNAエレメントにはタンパク質因子が細胞周期依存的に結合する、(3)本遺伝子を転写している細胞と転写していない細胞では核マトリックスに結合する領域が異なる、等を明らかにした。 これらの結果は、「染色体上の複製開始点の位置的変化が転写領域の分布パターンと密に関連し、この変化が細胞分化に関わっている」という我々のモデルと矛盾しない。今後、これをさらに検証するためには、AldBプロモーター/複製開始領域を中心としたさらに広い範囲の遺伝子領域を解析し、複製開始領域および転写領域がどのように配置しているのか、等を詳しく知る必要がある。一方、細胞間で複製開始領域が異なり、そのことがAldB遺伝子転写のオン-オフと連動することは、本遺伝子領域の核内高次構造(核マトリックスとの結合)の違いに起因するらしいことがわかった。この機構は不明であるが、核マトリックスとの結合が転写制御や複製単位を包括するクロマチン機能ドメインの構築に関与する可能性が考えられた。
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