染色体上の遺伝情報は、転写・翻訳・修飾・局在などを通して機能分子として働く。転写はこれら一連の発現制御の第一段階であり、主に遺伝子の5'上流にある特異的塩基配列と結合蛋白質との相互作用によって制御され、発生・分化段階に応じて必要な遺伝子のみが発現している。 染色体DNAの塩基配列が急速に蓄積されているが、効率よく網羅的に遺伝子の5'上流部分を単離する方法が確立していないため、組織特異的発現制御部位の同定は現在もほとんど進んでいない。 本研究は、研究代表者が開発したオリゴ・キャップ法(5'末端を含むcDNAのみを効率よくクローニングする方法)を発展させ、遺伝子の5'上流部分のライブラリー作製法開発を目的としている。本年度は以下の検討を行った。 1.mRNAの5'末端標識用のオリゴリボヌクレオチドの設計 (1)標識ヌクレオチド配列を最終的に除去可能な配列(制限酵素部位挿入)にする (2)mRNAへの結合効率と配列との関係 2.ランダムプライマーの5'共通配列の設計 (1)ベクターへの挿入のための制限酵素部位の検討 (2)ランダムプライマー部分の長さと配列の検討 3.メガプライマー切り出し条件の検討 4.メガプライマーを使ったPCRの反応条件の検討 5.ベクターの改良 (1)レポータ遺伝子に直接クローニングできるベクターの作製 現在、上記の検討結果を踏まえ、各種臓器由来の培養細胞からmRNAを抽出し、臓器特異的ライブラリーの作製を行っている。次年度は、ライブラリーをより少ない試料から作製ができるように改良するとともに、より広範囲の組織を出発材料に組織特異的ライブラリーの作製を行う計画である。
|