染色体上の遺伝情報は、転写・翻訳・修飾・局在などを通して機能分子として働く。転写はこれら一連の発現制御の第一段階であり、主に遺伝子の5'上流にある特異的塩基配列とDNA結合蛋白質との相互作用によって制御されている。ゲノムプロジェクトによって、染色体DNAの塩基配列が急速に蓄積されているが、発現制御部位の同定は、効率よく網羅的に遺伝子の5'上流部分が単離する方法がまだ確立していないため、ゲノムプロジェクトが進んでも、空白部分となる可能性が高い。 本研究は、研究代表者が開発したオリゴ・キャップ法を発展させ、遺伝子の5'上流部分のライブラリー作製法の開発を目的としている。オリゴ・キャップ法による完全長cDNAライブラリーの作製とその塩基配列のカタログ化が進む中で、その5'末端が公開されているデータベースの塩基配列と一致しない例が見つかってきた。そこで、転写開始点同定法の再確認を含め以下の検討を行った。 ・オリゴ・キャップ法で同定された転写開始部位の検討 完全長cDNAライブラリーとデータベースに登録されているcDNAの5'末端を比較した結果、オリゴdTからcDNAの伸長反応を行った場合には、調製されたmDNAによって完全な5'末端が得られない場合があった。しかし、ランダムプライマーや特異的な塩基配列をもとにcDNAの伸長反応を行った場合には、正確な転写開始点が同定できることが分かった。このことは、実際に分離したプロモータ部分の欠質変異体とそのプロモータ活性を比較検討した結果とも一致していた。 ・プロモータ部位の分離と解析 オリゴ・キャップ法で同定した転写開始部位の情報をもとに各種プロモータを分離し、その詳細な構造解析と転写活性の検討を行った。 ・ライブラリーの作製 各種臓器由来の培養細胞からmDNAを抽出し、臓器特異的ライブラリーの作製とそのカタログ化、5'末端の比較検討を行っている。
|