ニワトリB細胞は、その抗体分子の遺伝子が卵黄嚢等で、単一のV(D)J再編成を受けた後、腸管リンパ組織であるファブリキウス嚢(ブルサ)に移行し、遺伝子変換機構により多様化し、末梢に播種され、抗原親和性の高いものが増幅すると考えられていた。単一のPCRプライマーでもってすべての抗体塩基配列が同定されるニワトリの利点を利用して、孵化前後のブルサ単一濾胞の抗体遺伝子を比較するとともに、孵化前の結糸手術により腸管抗原刺激からブルサを隔離する際に予めNPハプテン抗原を与えることによって、その抗原刺激の影響を調べた。孵化前の濾胞では、遺伝子変換だけでなく点突然変異も併用して活発な遺伝子修飾が行われ、ほぼ半数がフレームシフトや停止コドンを生じた不稔変異クローンであったが、細胞分裂を継続し遺伝子の多様性を拡大していた。アミノ酸置換は4%程度であったがCDRに限ると平均8%であった。抗原刺激の有無に拘わらず、孵化後1週の濾胞でのアミノ酸置換は15%程度で、CDRに限ると30〜40%であった。NP抗原刺激のない結糸濾胞では、孵化前同様40%程度の不稔変異クローンが見られたが、自然環境抗原刺激下では20%程度、NP抗原刺激下では10%程度まで不稔変異が激減し、特定の機能的クローンに偏した選択が見られた。初年度に、末梢牌胚中心での抗体のアミノ酸の平均置換率23%、CDR領域に限ると50〜70%の値を得ているので、抗原に依存した抗体親和性の増大は、腸管リンパ組織と末梢血管系胚中心で2段階に分かれて行われることが明らかになった。また抗原刺激を受けた牌細胞とそのハイブリドーマを解析し、クラススイッチ組換えがTATGGとACCAGを基本モチーフとするSμ反復配列とTATGGとGGCAGを基本とするSγ反復配列の間で生ずる欠失組換えであることを明らかにした。その組換え点は一本鎖DNAのヘアピン構造のマイクロサイト近傍に検出された。これまで困難であった哺乳類末梢器官での抗体遺伝子の情報変化のダイナミズムが、ニワトリに特有のリンパ器官であるブルサと結合組織に囲まれた末梢脾胚中心ではじめて明らかにされた。
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