研究概要 |
基本転写因子TFIIDは転写開始前複合体のアッセンブリーに際して核となる分子であり、転写調節因子から受け取った信号を転写量の増減へ変換するうえで中心的な役割を果たす。本研究では転写調節の基本的分子機構を理解するため、TFIIDサブユニットの機能について解析し、いくつかの新しい知見を見た。 出芽酵母TFIIDサブユニットyTAF145のN端に存在する6-96番のアミノ酸から成る領域(yTAF145N)は、単独でTBPに強固に結合しその機能を阻害する。またこの活性領域はさらに二個の機能的な小サブドメイン(N端側から順にyI,yIIと呼ぶ)に分割することができる。一次構造上種間で保存されているのはサブドメンII(yII)のみであり、yIIは転写活性化に必須の基本転写因子TFIIAと競合的にTBPと結合する。また興味深いことに保存性の低いサブドメインI(yI)は多くの点で転写活性化ドメインと類似していた。TBPとの結合、温度感受性の回復、酵母細胞内における転写活性化、いずれのアッセイ系においても両者は等価であり、導入した全ての点変異について両活性(yIとしての活性と転写活性化ドメインとしての活性)は相関していた。以上の結果は少なくとも一部の転写活性化は当該TAFのN端を介して行なわれていることを強く示唆する。またショウジョウバエの対応するサブドメインとのキメラタンパク質を酵母細胞内で発現させたところ、N末端から部分的に分解されることが明らかとなった。この蛋白質分解の有無は一次構造そのものではなく、TBPとの結合性に依存していたことから、TAFのN端とTBPの相互作用は酵母細胞内において高度に制御されているものと考えられる。
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