MST(MKN-28-derived nonreceptor serine/threonine kinase)はMLK(mixed lineage kinase)と呼ばれる酵素群に属するタンパク質リン酸化酵素で、これがSEK1を直接リン酸化して活性化するMAPキナーゼキナーゼキナーゼとして機能することを昨年度までに報告している。その後このSEK1以外にもMSTによるリン酸化を受け活性化され、JNK/SAPK活性化を誘導する酵素をCOSl細胞抽出液中に見い出し、これがMKK7であることをつきとめた。さらに、レコンビナントタンパク質を用いた実験により、MSTがこのMKK7をSEKlより効率よく活性化することを明らかにした。SEK1はJNKの他p38MAPKも活性化するのに対しMKK7はJNKを特異的に活性化することから、SEK1をMKK7と同等もしくはそれ以上に効率よく活性化するMEKK1に比べてMSTはよりJNK経路に特異的なMAPキナーゼキナーゼキナーゼであるといえる。MSTは細胞内にごく微量発現させるのみで強力にJNK/SAPKを活性化することから、この発現量は生体内において厳密に制御されているものと考えられる。MSTの発現をin situハイブリダイゼーションにより検定した結果、マウス胚においては主に神経系において高い発現が認められ、神経細胞の分化やアポトーシスの誘導に関与していることが考えられた。MSTはこの他多くの癌細胞において発現しているが、これがVEGFのプロモーターを活性化することを新たに見出し、現在腫瘍血管新生におけるMSTの役割とMSTの発現調節機構について研究を進めている。
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