今年度は、現象を整理することを中心課題とし、以下に述べる3項目について検討した。なお、立体構造変異体には、二重らせんの軸が右方向にねじれているもの1種、左方向にねじれているもの2種、らせん軸軌道が直線状のもの(コントロール用)2種を用いた。[検討課題1]上流のベントDNAの形とプロモーター強度の間に現象的にどのような関係が存在するのか。[検討課題2]上流のベントDNAの位置(TATAボックスからの距離)はプロモーターの強度にどのような影響を及ぼすのか。[検討課題3]プロモーターに対するベントDNAの回転上の配向はプロモーターの強度にどのような影響を及ぼすのか。<結果>(1)については、プロモーターの上流に二重らせんの軸が左方向にねじれた構造をとったベントDNA構造(左向きベント構造と略す)が存在すると、その回転配向によってはプロモーター強度を5倍も上昇させる場合がある(後述)ことが明らかになった。(2)については、同じ立体構造変異体を上流にもち、さらにプロモーターに対する回転配向が同じもの同士で比較すると、どの立体構造変異体もプロモーターに近づくにつれ、わずかではあるがプロモーターの強度を低下させることが明らかになった。(3)については、左向きベント構造がプロモーターに対して一定の回転配向をとると、プロモータ強度が常に4〜5倍も上昇することが明らかになった。他の構造の場合も、回転配向に依存してプロモーターの強度に影響を及ぼしたが、その程度は左向きベント構造に比べてわずかなものであった。 以上の解析結果から、上流DNAの立体構造とプロモーターに対する回転上の配向が、転写において特に重要な役割を果たすことが明らかになった。平成10年度は、左向きベント構造が転写を促進するメカニズムをヌクレオソーム構造の解析を通して明らかにしてゆくつもりである。
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