本研究では、人工合成したベントDNAとヘルペス単純ウイルスのチミジンキナーゼ(tk)プロモーターまたはヒトアデノウイルス2型E1A遺伝子プロモーターを用いて、50種類にものぼる組換え体を作製し、ベントDNAの形、プロモーターに対する回転上の配向、そしてその存在位置がプロモーターの活性に与える影響について、系統的な解析を行った。その結果、プロモーターを活性化できるベントDNAの形を解明し、加えて、プロモーターに対するベントDNAの最適空間配置も解明した。tkプロモーターの場合、TATAボックスの中心から上流に約140bp離れた位置に、左向きのねじれを持ったベントDNAの中心が存在すると(このとき、両中心は互いにほぼ反対向きの配置になる)プロモーターが最も活性化された。次に転写活性化の分子機構を解明するために、ベントDNAがプロモーター領域の局所的なクロマチン構造に及ぼす影響について解析した。その結果、再構成ヌクレオソームを用いたinvitroの解析でも、また、単離核を用いたin vivoの解析(in vivo DNaselフットプリントアッセイ)でも、高活性プロモーターにおいてのみ、TATAボックス上にヌクレオソームが形成されないことが解明された。これは、ベントDNAが試験管内だけでなく、生細胞核内においてもクロマチン構造の構築に大きな影響を及ぼしたことを示している。一般に、ヒストンは高活性を示すプロモーターには結合しにくくなっていると予想されるが、ベントDNAを持つ高活性プロモーターでは、このような現象が実際に起きることが明らかになった。今回得られた結果は、ベントDNAによる転写調節が、真核細胞ではクロマチン構造の制御を介して行われることを強く示唆するものである。
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