細胞周期の制御はサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の役割を中心に急速に理解が進んでいる。CDKの活性調節が、CDKの制御因子の解析によって多くが明らかになってきたのに対し、CDKの働きを直接細胞に伝える標的基質の研究は大きく遅れているのが現状である。本研究は動物細胞のG1期特異的CDKであるサイクリンE-CDK2の未知の標的基質の検索を第一目的とするものである。具体的には、酵母 Two-Hybrid法により既に我々が単離しているサイクリンE-CDK2と相互作用する二つの新規遺伝子の解析を進展させた。そのうちの一つCeb1は細胞内蛋白分解に関わるユビキチン経路のE3ユビキチンリガーゼの一種をコードし、Ceb1遺伝子の発現はガン抑制遺伝子産物のp53とpRbによって協同して調節されていることを本研究で示した。生体内でのCeb1の発現は生殖組織に限局し、かつ細胞老化にともなって強い発現の上昇が観察されたことから、細胞増殖のみならず減数分裂や老化とも関係することが予想される。サイクリンE-CDK2とCeb1との相互作用の意義について検討した結果、Ceb1がサイクリンE-CDK2の基質となりうること、Ceb1蛋白質がサイクリンEを含む各種サイクリンと会合することを証明した。以上の結果は、Ceb1がサイクリンE-CDK2の標的基質であることを強く示唆する。また、Ceb1過剰発現株の表現型の解析より、Ceb1のサイクリンEの安定性と細胞内局在への関与を見いだした。さらに、Ceb1遺伝子の染色体上の位置を4q22に特定した。以上の研究成果は国際誌に投稿準備中である。サイクリンE-CDK2と相互作用するもう一つの遺伝子Wiz1については、サイクリンE-CDK2の阻害因子p21と会合し、サイクリンE-CDK2の標的基質となりうることを見いだした。Wiz1の細胞内性状と生理機能についてモノクローナル抗体を作成し、現在検討中である。
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