本研究は、ウシの発情周期における黄体の形成や退縮(細胞死)および妊娠期における機能維持などの黄体の形態的・機能的変化に対し、プロスタグランジン(PG)F_<2α>の持つ機能の多様性と作用の分子メカニズムを明らかにすることを目的として行った。まず、発情周期のウシ黄体中のPGF_<2α>受容体(FP)の発現量を調べたところ、黄体形成と共にRNAの著しい増減が認められた。そこでゲルシフト法やDNaseIフットプリント法によりFP遺伝子の転写プロモーター領域を解析したところ、翻訳開始点の上流-249〜-861の領域に周期依存的にタンパク質の結合する部位が確認された。さらにルシフェラーゼアッセイにより転写プロモーター領域の同定を行ったところ、上流約-503〜-1257の領域内に転写活性を増加させる部位が確認された。以上の結果から、FP遺伝子は、翻訳開始点の上流-503〜-861の領域にDNA結合タンパク質が特異的に作用し、発情周期依存的な転写制御を行っているものと考えられた。さらにDifferential Display法を用いて、黄体細胞のアポトーシスに関与する遺伝子の単離、解析を行ったところ、Mn型スーパーオキシドジスムターゼ(Mn-SOD)がアポトーシス直前に特異的に発現していることが判明した。そこでさらに各種抗酸化酵素の発現量を調べたところ、発情周期の進行に伴いO_2^-の消去酵素であるMn-SODおよびCu/Zn-SODの増加が認められた。また同時に、過酸化水素の分解に作用するカタラーゼの発現は増加したものの、GPxはむしろ周期依存的に減少していることが分かった。従って退縮直前の黄体細胞ではO_2^-の分解により生じるH_2O_2の除去が不十分となり、蓄積した過酸化物が黄体細胞のアポトーシスを誘導する原因の一つになっているものと考えられた。以上の結果から、発情周期のウシ黄体細胞においては、PGF_<2α>受容体遺伝子の厳密な発現制御と抗酸化酵素類の発現バランスの変化が、アポトーシスの制御にとって極めて重要であることが示唆された。
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