ストレス刺激時におけるPKNの核移行のメカニズムを検討するため、前年度はPKNの欠失変異体のアミノ末端にタグを融合して培養細胞に発現させ、タグに対する抗体をもちいて免疫染色を行ったが、今年度はそれに加えて、PKNの全長、アミノ末端、カルボキシル末端、およびRhoA結合領域欠失変異体のカルボキシル末端に蛍光物質GFPを融合したかたちで、一過性、あるいは恒常的に培養細胞に発現を試み、それぞれのの細胞内局在を検討した。その結果アミノ末端の一部の領域が核移行に重要であることを示唆する結果を得ている。現在種々の変異体をもちいてさらに細かな検討を加えているところである。砂ネズミを用いた実験で、総頚動脈を一過性に結さつし虚血ストレスを与えると、海馬CA1領域の錐体細胞に遅発性細胞死をおこすことができるが、この際にPKNの断片化が生じていることが明らかになった。また、Jurkat細胞やU937細胞にエトポシドやスタウロスポリン、Fas抗体などのアポトーシス誘導ストレスを加えると、PKNがやはり断片化をおこすことが免疫化学的検討により明らかになった。この断片化はキャスパーゼ3に選択的な阻害剤によって抑制されることや、in vitroで組換体キャスパーゼ3がPKNを同様に断片化すること、また特定の部位のアスパラギン酸をアラニンに置換した変異体でその断片化が抑制されることから、キャスパーゼ3様のプロテアーゼによって触媒されていることが考えられる。また、in vitroにおけるキャスパーゼ3によるPKNの断片化の実験から、生じる分子量約50kDaの断片は、脂肪酸に非依存的に恒常的にリン酸化活性を有していることが明らかになり、アポトーシスの際にPKNが積極的に関与している可能性も示唆された。これらの結果はProc.Natl.Acad.Sci.USA誌に発表した。
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