研究概要 |
増幅したがん遺伝子が局在するDM(Double Minutes)は広範ながん細胞に見られる。我々は、DMが排出されることにより、がん細胞が脱がん化、分化することを見い出した。DMの排出には、細胞質に生じた微小核への選択的な取り込みを介する。我々は、このような微小核が細胞外の培養液中に見られることから、微小核の細胞外への排出により、DMの排出がおこると推察した。そこで、DMを高度に選択的に取り込んだ細胞微小核を介して、細胞間でDMが転移する可能性が考えられた。このような可能性は、生体内のがん組織の複雑な進展過程を理解する上でも、また、DM排出療法を行う上でも、極めて重要な意味を持つため、執拗に検討を行った。しかし、平成9年度までの実験では、どのような条件でも細胞外微小核を介してDMが細胞間で転移したことを示す結果は得られなかった。一方、このようなDMの細胞間転移は起こりえない理由を明らかにすることもまた重要な意味を持つ。そこで、平成10年度には、DMの細胞内動態と、微小核を介する排出機構に焦点を当てて研究を行った結果、大きな成果が得られた。具体的には、1)細胞外微小核の性状をより詳細に検討した。また、微小核の細胞外への放出により、DMの排出が定量的に説明できることを明らかにした(投稿中)。2)DMの間期細胞内での細胞周期進行にともなう動態を詳細に検討した結果、染色体外遺伝因子の今まで知られていなかった極めて興味深く重要な挙動が明らかになった。(J.Cell Biol.,1998;J.Cell Science,1998,および、複数の投稿準備中の論文)すなわち、DMは細胞分裂期に染色体末端に付着して娘細胞へ分配されるが、そのような機構から脱落したDMが細胞質に残り、DNA合成期に微小核へ取り込まれることが明らかになった。すなわち、微小核の中のDMは何らかの構造的欠陥を持つことが示唆された。
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