研究概要 |
HB-EGFはEGFファミリーの増殖因子で、膜結合型蛋白質として合成され、プロテアーゼによる切断を受けて細胞外に分泌されるが、その大部分は細胞膜上にとどまり、膜結合型(proHB-EGF)のまま細胞膜上で細胞-細胞間の直接の情報伝達(ジャクスタクライン)に機能していると考えられる。proHB-EGFは膜蛋白質CD9を介して細胞接着因子インテグリンα3β1と複合体を形成して細胞間接着部位に局在している。またHB-EGFの膜結合型から分泌型への変換に関わるプロテアーゼや、細胞外マトリックスなどを含め、細胞間接着部位においてproHB-EGFによるジャクスタクラインにおいてある種の機能複合体が働いていると予想される。そこで我々は、proHB-EGFによるジャクスタクライン機構とその活性発現における複合体構成因子の機能の解明を目的として、以下の研究を行った。 (1) proHB-EGFの生理活性の解析 ヒトproHB-EGF発現細胞とヒトEGFR発現細胞との共培養実験系によって、膜結合型HB-EGF(proHB-EGF)は、細胞増殖因子活性を持つ分泌型(sHB-EGF)とは異なり、EGFR発現細胞に対して増殖抑制・アポトーシス誘導活性を示すことが明らかとなった(論文投稿中)。 (2) proHB-EGFからsHB-EGFへの変換機構の解析 proHB-EGFからsHB-EGFへの転換には、プロテインキナーゼC(PKC)-δと、これと結合するADAMファミリーのメタロプロテアーゼMDC9が関与していることが明らかとなった(EMBOJ.,17,7260-7272,1998)。 (3) proHB-EGF複合体新規構成因子の同定 proHB-EGF複合体構成因子の同定を目的として、proHB-EGFと共沈降する蛋白質を特異的に認識するモノクローナル抗体1C9-2を作製した。残念ながら、まだこの抗原の同定には至っていないが、蛋白精製の過程で、1C9-2抗原は他の未知の蛋白成分とかなり強固な複合体を形成していることがわかってきた。現在、蛋白の精製と並行して動物細胞を用いた発現クローニング法も試みている。
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