既知のrasGAPと高い相同性を有する新しい分子nGAPのcDNAをヒト心筋ライブラリーから単離した。nGAPは、線虫C.elegansのrasGAPであるGAP-2と全長にわたって高い相同性を有しており、哺乳類のGAP-2相同蛋白質であると考えられる。 nGAPがRas蛋白質に対するGAP活性を持つことを以下の2つの方法で検討した。第一に、酵母のrasGAP遺伝子であるIRA1、IRA2の欠損変異株でnGAPを発現し、nGAPがこれらの変異株のrasGAP活性の欠損を機能相補できるか否かを検討した。nGAPがIRAの欠損変異株を相補し、かつ活性型Ras変異株RAS2-V19に無効であったことは、nGAPがrasGAPとして機能することを示している。第二に、nGAPのGAPドメインを大腸菌ならびに酵母を用いてGST融合蛋白質として発現し、精製した蛋白質を用いてin vitroでRasファミリー低分子G蛋白質(H-Ras、R-Ras、Rap1B、Ral)に対するGAP活性を検討した。調べた条件ではいずれのG蛋白質に対してもGAP活性は検出されず、nGAPのGAP活性にはさらに何らかの条件ないしは因子が必要である可能性も考えられる。 nGAPの発現の臓器特異性をNorthern法で検討したが、発現量が低く明瞭なシグナルを得ることができなかった。そこでESTデータベースを検索し、nGAPのマウス相同遺伝子の配列情報を得て、マウスの臓器由来のmRNAに対しRT-PCR法により発現を検討したところ、調べた全ての臓器でnGAPの発現が確認され、nGAPが多くの臓器で広く発現していることが明らかになった。 nGAPはヒト染色体の1q24近傍にマッピングされた。この領域には遺伝性前立腺癌の原因遺伝子が存在することが示唆されており、nGAPがこの癌抑制遺伝子の本体である可能性がある。
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