既知のrasGAPと高い相同性を有する新しい分子nGAPのcDNAをヒト心筋ライブラリーから単離し、解析を進めている。nGAPは線虫C.elegansのrasGAPであるGAP-2と全長にわたって高い相同性を有しており、哺乳類のGAP-2相同蛋白質であると考えられる。 nGAPはその構造からRas蛋白質に対するGAP活性を持つことが予想される。これまでにnGAPが出芽酵母のrasGAP遺伝子であるIRA1/IRA2の欠損を機能相補することを確認しているが、GST-nGAP融合蛋白質を用いたin vitroの実験ではrasGAP活性を確認できなかった。そこで、培養細胞におけるnGAPの高発現がRas蛋白質の活性に及ぼす影響を、ras/MAPキナーゼ経路に対する抑制効果を指標に検討した。実験にはHeLa細胞を用い、血清刺激に応答したMAPキナーゼの活性化は、エピトープタグされたERK2をトランスフェクトし、そのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動土の泳動度の変化としてウエスタン法により検出した。その結果、nGAPの発現プラスミドをトランスフェクトしnGAPを高発現させた細胞でも、対照としてベクターのみをトランスフェクトした場合に比較して、MAPキナーゼの活性化に顕著な差が認められなかった。nGAPのGAP活性の発現には何らかの条件ないし因子が必要である可能性も考えられる。 ラディエーションハイブリッド法とFISH法を用いてnGAPの染色体マッピングを行ったところ、いずれの方法によってもnGAPはヒト染色体1q25にマッピングされた。この領域には遺伝性前立腺癌の原因遺伝子HPC1が存在することが示唆されており、nGAPがこの癌抑制遺伝子の本体である可能性がある。
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