1.既知のrasGAPと高い相同性を有する新しい分子nGAPのcDNAをヒト心筋ライブラリーから単離した。nGAPは中央部に存在するGAP関連ドメインに加え、C末端付近にcoiled-coilを取ると考えられる領域を持っていた。nGAPはシナプス特異的に局在するSynGAP、および線虫C.elegansのGAP-2と全長にわたって高い相同性を有していた。 2.nGAPの発現の組織特異性をRT-PCR法を用いて検討したところ、調べた全ての臓器で発現が認められた。 3.出芽酵母のrasGAP遺伝子であるIRA2の欠損をnGAPが機能相補することを確認し、nGAPが酵母のRas蛋白質に対してrasGAPとして機能することを示した。 4.大腸菌で発現したGST-nGAP融合蛋白質を用いたin vitroの実験では、H-Ras蛋白質に対するrasGAP活性を確認できなかった。またR-Ras、Rap1B、Ra1を基質にした場合もGAP活性は認められなかった。 5.培養細胞(HeLa細胞)におけるnGAPの高発現がRas蛋白質の活性に及ぼす影響を、血清刺激に応答したMAPキナーゼの活性化に対する抑制効果を指標に検討した。その結果、nGAPの発現プラスミドをトランスフェクトしnGAPを高発現した細胞でも、MAPキナーゼの活性化の抑制が認められなかった。nGAPのGAP活性の発現には何らかの条件ないし因子が必要である可能性も考えられる。 6.FISH法とラディエーションハイブリッド法を用いてnGAPの染色体マッピングを行ったところ、いずれの方法によってもヒト染色体1q25にマップされた。この領域には遺伝性前立腺癌の原因遺伝子HCP1存在することが示唆されており、nGAPがHCP1の本体である可能性がある。
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