カスパーゼ・ファミリーのプロテアーゼはアポトーシスの誘導過程において中心的役割を果たすと想定されているが、それらのアポトーシス以外の生物活性はよくわかっていない。そこでカスバーゼ-1(ICE)、-2(ICH-1)、および-3(CPP32)のcDNAをHa-ras-トランスフォームNIH3T3細胞に導入し発現を誘導してその影響を調べた。その結果、これらのプロテアーゼを高発現してもそれのみではアポトーシス様の変化は観察されなかった。しかしながら、カスパーゼ-2を高発現したクローンは形態的に変化し、しばしば正常復帰していた。このような形態変化はカスパーゼ-2の発現量と相関していた。また、正常復帰したクローンは軟寒天中での基質非依存性増殖能を失っていた。これらのことからカスパーゼ-2はHa-ras-トランスフォーム細胞を正常復帰させるがん抑制活性を保持すると推定された。さらに他のトランスフォーム細胞について調べたところ、v-src-トランスフォーム細胞についても同様の効果を示したが、Ki-ras-トランスフォーム細胞には影響を及ぼさなかった。従って、カスパーゼ-2はSrcやHa-Rasに特異的なシグナル伝達経路に作用する可能性が示唆された。そこでHa-Ras蛋白質をウエスタン法で調べたところ、カスパーゼ-2の高発現株ではHa-Rasが減少していることが判明した。Ha-ras-トランスフォーム細胞の抽出液をin vitroで加温するとHa-Ras蛋白質が分解され減少するが、この時、カスパーゼ・インヒビターを加えておくとその分解が完全に抑制された。これらのことから、カスパーゼ-2はHa-Ras蛋白質の分解を亢進してトランスフォーム細胞を正常復帰させるものと推定された。
|