卵膜を基質として機能するプロテアーゼのうち、孵化酵素に関しては、エゾアカガエルを材料に用い、酵素学的性質の解明に関してめざましい進展があった。本種はアフリカツメガエルに比べ、多量の酵素を集めることが可能であるため、酵素学的解析に適している。尾芽胚の飼育液中に分泌された孵化酵素(孵化液)を回収して、ゲル濾過、陰イオン交換カラムを利用して高度に精製した。その結果、エゾアカガエル孵化酵素は、55.7kDaのタンパクとして分泌される金属プロテアーゼで、トリプシンタイプのセリンプロテアーゼとしての特徴を兼ね備えていることが明らかになった。また、活性型の酵素は、合成後に糖鎖修飾されている。さらに尾芽胚頭部には、孵化液中に存在する酵素よりも分子量が大きく(63kDa)、孵化酵素特異的な抗体に反応性をもつタンパクが存在していることから、孵化酵素はプレタンパクとして合成された後、部分的な分解を受けて活性型の酵素となることが示唆された。上記の結果は、以前我々が明らかにした、アフリカツメガエル孵化酵素の一次構造から推測される性質と非常によく合致しており、両生類の孵化酵素に共通の性質であると考える。なおエゾアカガエル孵化酵素の酵素学的研究については、現在論文を投稿中である。 一方、輸卵管直部由来のプロテアーゼについては、ヒキガエルを材料に用いて、タンパクの精製を行い、N末端から12個のアミノ酸配列を決定した。その結果、既に部分的なアミノ酸配列としてアメリカのグループから報告されている、アフリカツメガエルoviductinと非常に高い相同性を示した。残念ながら我々が明らかにしたアミノ酸配列は、ヒキガエルoviductin cDNA単離のためのプローブを合成するには適さず、輸卵管直部のcDNAライブラリーを作製するにとどまり、一次構造決定には至らなかった。
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