卵成熟誘起の主要調節因子(MPF)の形成・活性化に直結するサイクリンBmRNA翻訳開始の分子機構を探る目的で、次の3点について研究した。 1) 卵成熟誘起におけるサイクリンB翻訳開始重要性の一般性検討 キンギョで初めて明らかにされたサイクリンB翻訳開始機能の卵成熟誘起への必要性を、他の動物種で検討した結果、アカガエルやイモリでも同様な結論が得られ、下等脊椎動物における一般的機構と結論された。 2) サイクリンBmRNA結合蛋白質の分子同定と翻訳抑制機能の検討 ビオチン標識mRNAアフィニティー精製で単離したキンギョサイクリンBmRNA結合蛋白質の分子同定を試みたが、試料不足のため成功には至らなかった。ホルモン刺激のmRNA翻訳への影響を調べる目的で、ホルモン刺激したゼブラフィッシュ未成熟卵にサイクリンBmRNAを注射する実験を行った。その結果、サイクリンBmRNAの注射に対して、ホルモン刺激を受けた卵母細胞の方が未刺激のものより早く成熟することがわかった。このことはホルモン刺激によりサイクリンBmRNAの翻訳効率が高まることを示唆する。 3) サイクリンBmRNA翻訳開始における既知蛋白質の機能 他の生物種や実験系でmRNA翻訳調節に関与すると予想されている蛋白質のキンギョ及びアフリカツメガエルホモログcDNAを単離し、組換え蛋白質に対する単クローン抗体を作製した。具体的には細胞質ポリアデニル化エレメント結合蛋白質(CPEB)、Nanos、Pumilio、ポリAポリメラーゼ、ポリA結合蛋白質、Yボックス蛋白質が挙げられる。これらのうち、PumilioとYボックス蛋白質についてはサイクリンBmRNAに結合することを確認し、翻訳抑制の強力な候補であることがわかった。その他の蛋白質についても、抗体を用いて卵母細胞内での局在、卵成熟過程での挙動及び機能の解析を進めている。
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