研究概要 |
本研究においては「細胞増殖(細胞周期進行の速度)」と「形態形成因子の発現」との関係に注目し、前者が後者を制御できるのではという仮説のもとに研究を遂行した。鶏肢の発生初期において、Aphidicolinで肢芽前方域で細胞増殖を局所的に遅らせた場合の過剰指の誘導と本来後方域で発現する遺伝子の発現誘導を以前に示したが、本研究ではこれが細胞死とは無関係であることを明らかにした。また、BrdU取り込みによる肢芽発生過程の詳細な細胞増殖速度の解析により、発生初期の肢芽の先端後部域には他の肢芽先端域に比べて細胞増殖速度が遅い特異的な領域があること明らかにした。この領域はShhやBMP-2の発現領域によく対応することから、ZPA(Zone of Polarizing Activity)域においては細胞増殖速度が遅いことを明らかにした。さらに、細胞周期進行を制御する方法として、Cyclin Dependent KinaseのInhibitor(CKI)であるpl6,p18,p19の各遺伝子をサイトメガロウイルスのプロモータを持つ発現ベクターに組み込み、GFP発現ベクターと共にエレクトロポレーション法により肢芽に導入し、肢芽で強制的に過剰発現させた。その結果pl6とp18遺伝子を導入した場合に、導入細胞域においてのみ、その一部の細胞域において異所的なBMP-2の発現が誘導されることが明らかとなった。導入されたCKIはCDK4/6に結合することで最終的に細胞周期のG1期からS期への進行を抑制する効果が期待されるので、この結果により、細胞周期進行速度が遅いとBMP-2発現が可能となることを直接的に示すことができた。これらにより、「ZPAで細胞増殖が遅いことがそこでの特異的な遺伝子発現を可能としている一要囚となっている」ことを示し、冒頭の仮説が成り立ち得ることを示した。
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