上皮組織から遊走性の胚細胞が分離、形成される過程は広範な多細胞動物の形態形成運動に認められることから、動物の形態形成の基本的過程である。ウニ胚においては一次間充織細胞と二次間充織細胞の分化過程においてこれが見られる。本研究計画は二次間充織細胞が分化得る過程においてこの細胞表面にどのような物質的変化があらわれ、それがどのような生化学的特性を持つものであるかを同定し、最終的にはその遺伝子を分離し、その発現を解析するものである。3年間の研究期間において、先ず二次間充織細胞が上皮組織から分離する時にのみ特異的に発現されるタンパク質を特異的に認識するモノクローン抗体の作製に成功した。さらに、免疫化学的手法を用いて、二次間充織細胞は上皮組織からの分化において相対分子量35kDaの単量体構造を持つタンパク質を上皮基底層の存在する特定領域にのみ一時的に発現することを明らかにした。しかし、変性コラーゲンを用いたザイモグラフ解析からはコラーゲン分解酵素としての機能を特定できず、既知のマトリツクスメタロプロテアーゼ(MMP)に対するどの抗体とも結合しないこと、また、その分子構造も既知のMMPとは異なることが明らかになった。これらから、既知のMMPとは異なる可能性を指摘した。一方、このタンパク質の分離精製にはキレート剤の使用が不可欠であることが分かり、このことから細胞膜に強固に組み込まれている膜タンパクである可能性が考えられた。モノクローン抗体を胚体内に注入した実験では胚形成に異常が起きないことから、このタンパク質のタンパク分解酵素としての機能には疑問が出てきたが、このモノクローン抗体が活性部位を認識していない可能性が抗体の特性上十分に考えられる。最終年度後半に、抗原を分離できる条件が解明できたので、新たに抗原タンパクの分離を行って、ポリクローン抗体の作製と、それに引き続くcDNAライブラリーの検索に着手する。
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