我々は多彩な生理機能をもつ細胞増殖因子を出芽ホヤ、ミサキマメイタボヤから発見した。精製したタンパク質はアミノペプチダーゼ活性をもち、ホヤ培養細胞の増殖と消化管分化抗原の発現を誘導した。N末端と内部のアミノ酸配列を決定し、これをもとに約300bpのDig標識プローブを作成した。cDNAライブラリーをスクリーニングしたところ、非翻訳領域を含む全長927bpのcDNAがクローニングされた。予想される266アミノ酸残基はtrefoil growth factor(新規細胞増殖因子ファミリーといわれている)のコンセンサス配列を5回繰り返し、1個のシスティンプロテアーゼのモチーフをもっていた。trefoil signatureは21個のアミノ酸で構成され、そこに保存されている4個のシステイン残基とその外側にある2個のシスティンがジスルフィド結合し、3個のS-Sループが形成される。これがtrefoilの名前の由来である。マウスのtrefoilホモログは腸上皮で発現しており、上皮の再生に機能していることがノックアウトマウスの結果から示唆されている。ホヤtrefoil factor(tTF)は出芽個体(一種の再生)の消化管分化を促進するので、上記の結果と一致している。ホヤのゲノムDNAの解析結果は、tTFが6個のエクソンで構成されていることを示した。whole mount in situ hybridizationの結果はtTFが主に分化多能性上皮細胞で発現していることを示した。また、Northern blot hybridizationにより、tTFが出芽期を通して安定に発現していることが分かった。バキュロウイルス発現系を用いたリコンビナントタンパク質の作出にはまだ成功していないが、大腸菌発現系によるGST融合タンパク質の発現に成功した。このリコンビナントタンパク質(rtTF)はジペプチジルアミノペプチダーゼ(システインプロテアーゼ)の活性をもっていた。rtTFの細胞増殖活性と分化誘導活性について、現在調査中である。
|