色素上皮細胞は機能的に分化した後でもレンズ細胞や神経細胞へと分化転換できるユニークな細胞である。この色素上皮細胞が多分化能を維持し、分化転換できるしくみを遺伝子発現レベルで明らかにすることを目的とした。特に転写因子であるMitfに注目して研究を行い以下の成果を得た。 1. ニワトリ発生過程でMitfは予定色素上皮細胞で他のどの分化マーカーよりも早く発現した。また、培養条件下でも色素上皮細胞の分化に対応して発現し、FGFやEGFなどにより脱分化が誘導される過程で発現が抑制された。さらにMitfを強制発現させることにより、色素細胞マーカーであるmmp115やtyrosinaseの発現が誘導されるとともに、分化転換が阻害された。一方Mitf以外にも色素上皮紬胞の分化を制御する転写因子が存在することが示唆された。 2. ウズラsilver変異ではMitf遺伝子に変異が生じ、転写活性の低いタンパク質が作られることがわかった。また、silver変異体の色素上皮細胞は生体内で自立的に神経性網膜細胞に分化転換すること、さらに、培養条件下でも増殖因子の添加なしに神経細胞やレンズ細胞へ分化転換することが明らかとなった。 以上のことからMitfは色素上皮細胞の分化転換の制御に極めて重要な役割を担う転写因子であることが明らかになった。今後Mitfの発現制御機構をより詳細に解析することによって、色素上皮細胞の多分化能維持のしくみを解明できると期待される。
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