脊椎動物の中枢神経は、単純な神経管が細胞分裂の度合いが様々に違うことと、神経細胞が生まれた場所とは違った場所に着生するのに、盛んに移動することにより、複雑な形態を獲得する。しかしこれまで細胞移動を効果的に検出する良い方法が無く、十分な解析が成されていない。本研究では、少数で方向も一定しない細胞移動であっても、任意の場所で細胞移動を効果的に検出する方法を開発した。開発した細胞移動の検出法の基本原理は、水銀ランプの光を集光して、石英光ファイバーに導き、胎児脳組織の局所に紫外線を照射することで細胞核内のDNAにThymin-dimerを形成させ、モノクロナール抗体を用いて、免疫組織化学的に検出するとういうものである。DNA内にThymin-dimerを形成させることで、移動に障害が生じる細胞もあるであろうが、既に合成されたmRNAや蛋白で移動を続ける細胞も存在するはずで、細胞移動に何ら影響を受けないですむ細胞もいることを、in vitroの系で示した。この方法を、DNA内のThymin-dimerを除去出来なくなった、色素性乾皮症の症状を示すミュータントマウスに用いたところ、核内の標識は永く残り、時間を変えて観察すれば、細胞が生じるところから最終目的地までの細胞移動を追跡できる。それぞれの系でどの程度の光エネルギーが必要であるか、その光エネルギーをどうやって局所に導くか、導く光ファイバーの太さはどの程度の物にするか(太ければ容易に十分なエネルギーを送れるが、胎児脳組織に対する侵襲が大きい)、UV特異的Endonucleaseの作用によりThymin-dimerが除去されるのに要する時間はどの程度であるか、Thymin-dimerが除去されるまでにどの程度の距離の細胞移動の観察が可能か、等など検討すべき多くのパラメーターがあった。ミュータントマウスでは、過剰のUV照射で、多くの細胞がアポトーシスを起こすので、免疫組織化学法でThymin-dimerが検出でき、死ぬことなく細胞が移動を続けられる程度の光エネルギーを調べた。マウスの胎児は、ラットのものより小さくなるので、光ファイバーに依る侵襲を減らすため、さらに細いものを使う努力をした。
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