小脳小葉の形成機序を解明するため、小葉奇形のラットを作製し、正常な小葉の発達と比較した。胎生期のX線被曝によって小脳小葉の形態異常が高頻度に起こる条件を探ったところ、妊娠21日に2.5 GyのX線を照射すると出生仔の小脳に100 %奇形ができることが分かった。この条件で照射後、出生仔の小脳を日齢を追って免疫組織化学的に観察した。急性変化として外顆粒層の広範な細胞死が観察されたが、死細胞は4日間で除去され、外顆粒層は活発な細胞分裂によって回復してきた。しかし生後5日には、神経細胞の遊走・配列に重要な役割を果たすといわれるリーリン蛋白質の一時的消失や分布異常が認められた。生後9目の観察では、プルキンエ細胞とバーグマン細胞が遊走を障害されて内顆粒層域に集団をなして残存し、異常な形態の小葉が形成され始めた。リーリン蛋白質の一時的消失や分布異常が、プルキンエ細胞とバーグマン細胞の遊走障害の原因であろう。プルキンエ細胞とバーグマン細胞が一層に配列を完了した後のX線照射は、小葉の形態に異常を来さないので、これら細胞の配列が小葉の形態を決定する重要な要素と考えられる。 その他、スンクスSuncus murinusの小脳の形態を系統間で比較したところ、系統内では均一で、系統間では著しい差がみられた。既にマウスで報告した(1980年)と同様、小脳の形態が遺伝的支配下にあることをみとめた。
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