ラットの胎生末期の放射線被曝は、小脳小葉の形成異常やプルキンエ細胞の異所形成などを引き起こすことが知られるので、ラットの妊娠21日に2.5グレイのX線に被曝させ、出生仔の小脳を経時的に免疫組織化学的に観察した。X線被曝6時間後までに、多数の外顆粒細胞が死滅したが、プルキンエ細胞の死は認められなかった。プルキンエ細胞は正常では生後5日までに一層に配列するが、被曝群では数列の細胞層のままであった。生後9日までに被曝群のプルキンエ細胞の重層の程度は滅少したが、樹状突起は短く、無秩序な方向に伸長していた。そこで、神経細胞の遊走・配列に関わる接着因子として、NCAM(neural cell adhesion molecuie)、fibronectinおよびtenascinなどの発現がX線被曝でどのように変化するか観察した。どれもプルキンエ細胞に発現がみられ、プルキンエ細胞は放射線抵抗性のための顕著な変化がみられなかった。最近、reelinという脳の皮質神経細胞の配列に重要なはたらきをもつ遺伝子が同定され注目を浴びたので、その産物であるReelinの発現を検討した。Reelinは、小脳では外顆粒層下層とその直下に発現が認められたが、X線被曝24時間後に消失した。外顆粒層の回復に伴ってReelinも回復したが、なお対照より低いレベルであった。この結果から、プルキンエ細胞の配列異常や樹状突起の発達障害は、X線のプルキンエ細胞への直接影響によるものでなく、これらの細胞の配列に重要な時期に、外顆粒層の破壊によってReelinの分泌が減少したことが原因と思われる。
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