本研究では遺伝子導入強制発現するベクターとしてアデノウイルスベクターを用い、アミロイド前駆体蛋白質(APP)のヒトニューロンでの作用を研究した。ヒト初代培養ニューロンに代わる培養系としてヒト胚性ガン細胞NTera2(NT2細胞)由来のニューロンを用いた。完全に分化したNT2ニューロンにAPP発現アデノウイルスベクターを導入した。導入後の形態変化を観察したところ、感染後3日目から突起を縮退させ、細胞体も膨潤するなどの変性が観察され、5日目になると変性ニューロンは細胞死を引き起こしていることが確認された ニューロンの変性がどのような経路でもたらされるのかをさらに検討した。まず変性細胞の核の形態をヘキスト染色により顕微鏡下で観察した。その結果、核の凝集、分裂化が観察された。さらにDNAの断片化が起きていることをタネル反応により確認した。以上の結果からAPP強制発現によるニューロン変性はアポトーシスであることが示された。またカスパーゼ3が、変性に先立って顕著に活性化されることが見いだされた。これらの結果からアルツハイマー病におけるニューロン変性の際にAPPの過剰蓄積がカスパーゼ3の活性化、さらにアポトーシスを引き起こしている可能性が示唆された。APP分子内のどの領域がアポトーシス誘導に関与しているのかを変異体APPを用いて検討した。その結果、アミロイドβペプチドを含む領域が重要であることを見いだした。またAPP強制発現により細胞内カルシウム濃度が上昇することが見いだされ、このことがカスパーゼ3活性化にいたる細胞内でのシグナル伝達に関与している可能性が示された。
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