研究概要 |
1. 新知見としてのアストロサイト内硝子様封入体(astrocytic hyaline inclusion,Ast-HI)の発見 家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)はsuperoxide dismutase 1(SOD1)遺伝子異常が病因と考えられる運動ニューロン系の疾患である.その病理学的特徴は,運動ニューロン内レビー小体様封入体(Lewy body like hyaline inclusion,LBHI)の存在である.今回,異なる2家系の長期生存例FALS2例にAst-HIを発見した.LBHIとAst-HIとは超微形態的に同一であり,ともにSOD1遺伝子異常の形態的表出であることが判明した. 2. 神経細胞内LBHIとAst-HIとにおけるadvanced glycation endproducts(AGEs)形成の発見 蛋白糖化(Maillard)反応は,血中グルコースが種々の蛋白質のアミノ基に反応し,シッフ塩基が生成される.やがてアマドリ化合物を形成され,酸化過程が加わり,不溶性で生体毒性のあるAGEsが形成される.LBHIとAst-HIにはSOD1が異常に集積していることも判明した.LBHIとAst-HIにおいてMaillard反応が生じ,AGEsの一つであるN^ε-carboxymethyl lysine(CML)がSOD1と共に共存していた.免疫電顕法にて,LBHIとAst-HIの両者の共通なgranule-coated fibrilにCMLが局在していた.即ち,両封入体を形成しているgranule-coated fibrilの主構成蛋白質であるSOD1,特に変異SOD1がAGE化を受けたものと考えられた.この事実は,SOD1自身がAGE修飾異変SOD1に成ることにより,より不溶性でより生体毒性の高い産物として,細胞内に凝集(aggregation toxicity)する事を意味し,封入体形成細胞死の1つのメカニズムを解明した.
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