平成9年度の成果: ガングリオシドの神経系への分化過程での役割を明らかにする一貫として、レチノイン酸の刺激によって神経細胞へと分化する多能性幹細胞(P19)の系を用いて、ガングリオシドの分子種を検索した。GD3とシナプス形成のマーカーであるGT1bは未分化細胞、凝集塊細胞、そして神経分化細胞へと増加した。一方、GQ1bは凝集塊細胞と神経分化細胞のみに検出されたのが、特徴的であった。細胞の免疫染色の結果、GT1b抗体で、未分化細胞から神経細胞まで染色され、神経分化細胞の神経突起や軸索が染色された。GD3、GT1b、GQ1b合成酵素活性の変化において、そのレベルは凝集塊細胞、神経分化細胞で高くなり、神経分化ヘコミットした時期に昂進することが判った。ノーザンブロットの結果、凝集塊細胞、神経分化細胞でGD3合成酵素mRNAの高い発現が認められ、このGD3合成酵素活性の増加はレチノイン酸による神経分化の過程で誘導されたことを示唆した。 平成10年度の成果: シナプス形成の特異マーカーであるGAP-43分子とシナプトフィシン分子の局在を神経分化細胞で調べた。ショ糖密度勾配法によりgrowth coneとシナプトソームの画分を調製した。growth cone画分の純度は抗GAP-43抗体で、シナプトソーム画分の純度は抗シナプトフィシン抗体を用いて、ウエスタン・ブロット法で確認した。また、神経細胞分化マーカーであるN-CAM分子の存在もウエスタン・ブロット法で確認出来た。神経細胞の固定剤はマトリゲルが最適であった。免疫染色の共焦点顕微鏡写真から、抗GQlb抗体の染色では、神経分化細胞の軸索のgrowth coneで強く染色され、GAP-43抗体の染色像と酷似していた。抗GTlb抗体の染色では、抗シナプトフィシン抗体のシナプスの染色像と酷似していた結果を得た。抗GTlb抗体、抗GQlb抗体と抗GAP-43抗体、抗シナプトフイシン抗体の組み合わせで二重染色を行い、各々の相互の分子の局在を比較検討した。
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