研究概要 |
我々は世界に先駆けてβ-グルコシダーゼ活性化蛋白質(Saposin C)を単離し、その機能の追求中に前駆体prosaposinの存在を発見した。Prosaposinは脳脊髄液等の細胞外分泌液に豊富に存在し、血小板で機能的に分泌される。免疫組織学的には、prosaposinは脳神経系の中でも神経細胞に特異的でコリン作動性神経細胞とその投射部位の神経線維に豊富に存在する。最近我々は、スナネズミ前脳虚血モデルで海馬遅発性神経細胞死に対しprosaposinが著明な保護効果を持つことを見い出し(Sano et al.(1994)Biochem.Biophys.Res.Comm.204,994-1000)、続いてモルモット坐骨神経切除モデルでprosaposinの末梢神経再生促進効果を明らかにした(Kotani et al.(1996)J.Neurochem.66,2019-2025)。更にprosaposin分子中のsaposinCドメインの親水領域に神経栄養因子活性中心が存在することを実証した(Kotani et al.(1996)J.Neurochem.66,2197-2200)。今回我々はprosaposinが種々の哺乳動物のミルク中に含まれ、その存在洋式としては乳清(Whey)中に顆粒画分に結合することなく可溶化された状態でモノマーとして存在し、熱変性沈殿化に耐性であることを見い出した(Patton et al.(1997)J.Dairy Sci.80,264-272)。これらの事実は、他の神経栄養因子群が母乳中に高濃度含有される事実と合わせ考えると、母乳中のprosaposinが乳児期の神経系に寄与している可能性を示唆するものである。
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