研究概要 |
ニューロンの生存と分化には種々の因子が関与することが明らかにされているが、ニューロンに豊富に存在する糖脂質も重要な因子の一つと考えられている。糖脂質の代謝に関わる種々の水解酵素の活性制御には活性化蛋白質が関与しているが、β-グルコシダーゼ活性化蛋白質(Saposin C)は我々が世界に先駆けて単離しその構造を明らかにした。以後我々は、Saposin Cおよびその前駆体蛋白質であるprosaposinに関する研究を継続的に行ってきた。Prosaposinは、4種の活性化蛋白質saposinsをドメインとして持つ高分子蛋白質であり、精巣における精子形成の分化過程に働く、セルトリ細胞から分泌される分化因子候補の硫酸化糖蛋白質1と同一蛋白質であった。その後、prosaposinの神経栄養因子としての可能性を考え、prosaposinが海馬神経細胞保護作用や末梢神経再生作用を有することを実証してきた。最近、パーキンソン病モデルラットの脳に精巣由来のセルトリ細胞を移植することで、著明な改善を生じることが報告された(Sanberg et al.(1997)Nature Med 3,1129)。この事実は、セルトリ細胞から分泌される何らかの栄養因子がドーパミン細胞に非常に強い効果を有することを示しているが、prosaposinはセルトリ細胞から細胞外に分泌される主要な蛋白質の一つであり、prosaposinあるいはその部分ペプチドがパーキンソン病への治療応用をも考慮されるべき可能性を示している。今回我々は、胎生15日齢胎児ラット腹側中脳細胞培養系を用いて、ドーパミン神経細胞に対するprosaposin神経活性ペプチド(アミノ末端神経栄養因子活性部位親水性領域18-merペプチド;LSELIINNATEELLIKGL)の神経栄養因子活性効果を検討した。Tyrosine hydroxyiase(TH)-陽性生存細胞数およびTH-陽性細胞における神経突起伸展は、ペプチド濃度依存性に増加した。この効果は、胎生17日齢胎児ラット海馬神経細胞の対する効果と同濃度で同程度であった。これらの結果は、prosaposinがドーパミン作動性ニューロンに対して、優れた神経栄養因子活性を持つことを意味し、パーキンソン病をはじめとするドーパミンニューロン変性疾患に対してprosaposin神経活性ペプチドが治療的応用の可能性を示唆している。
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