研究概要 |
初代培養神経細胞を刺激するNaポンプ(Na,K-ATPase)アイソフォームが選択的な活性調節を受ける.この神経細胞に特有なNaポンプの選択的な活性調節機構を解明する目的で,神経細胞型Naポンプを安定に発現する遺伝子導入細胞を用いて解析を行った.T3-3-3-細胞はBALB/c 3T3細胞(マウス繊維芽細胞)にα3型(神経細胞型)Naポンプのα3鎖cDNAを導入することにより得られた細胞である.この細胞に,本来のα1鎖のほかにα3鎖が存在することを,RT-PCRによりmRNAレベルで,またWestern blot解析によりタンパク質レベルで確認した.さらにこの細胞で,α3型Naポンプの存在量が全体の約30%であることを,細胞膜分画のNa,K-ATPase活性の測定によって明らかにした.細胞への^<42>K^+取り込みにより求めたNaポンプ活性は非常に低値であったが,ナトリウムイオノフォアで細胞を刺激することにより有意となった.このとき,α3型Naポンプ活性の割合は,存在の割合と同じ全体の約30%であった.これは,初代培養神経細胞の結果と異なり,α1型とα3型Naポンプが細胞内で同等にイオンを輸送していることを示している.さらに,細胞内のcAMP濃度を上昇させる薬物や,protein kinaseCを活性化させる薬物で細胞を刺激したが,Naポンプ活性は影響されなかった.これらの結果は,Naポンプアイソフォームの選択的な活性調節が起こるためには,神経細胞型Naポンプが存在することだけでは不十分であり,神経細胞に特有ななんらかの活性調節機構が必要であることを示唆する.現在,この活性調節機構が存在する可能性がより高い神経株化培養細胞に,神経細胞型Naポンプ遺伝子を導入し安定に発現する遺伝子導入細胞の確立を試みており,さらに解析を進める.
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