これまで哺乳類における遊離型アミノ酸は、すべてL-体から構成されていると考えられてきた。しかし最近、哺乳類組織中に遊離型D-アスパラギン酸とD-セリンが存在することが明らかとなり、哺乳類においてもD-アミノ酸が機能している可能性がでてきた。私は、前年度までにL-セリンの腹腔内投与及び脳室内投与(2時間後)によってD-セリン含量が増加することを報告し、L-セリンがD-セリンの前駆物質である可能性を示唆した。そこで本年度はL-セリン脳室内投与によるD-セリン含量の時間依存性及び脳部位依存性について検討を行った。 L-セリン脳室内投与によって、L-セリン濃度は大脳皮質を除く他の全ての脳部位で2時間後に最大値(約6-10倍)を示し、その後徐々に減少した。大脳皮質では、6時間後にL-セリン濃度が約2倍に増加し、その後減少した。また、D-セリン濃度は大脳皮質、線条体、海馬及び間脳において6時間後に最大値を示したが、橋-延髄及び小脳においては2時間後と早く、D-セリン濃度変化も他の脳部位に比べて少なかった。小脳及び橋-延髄には中性D-アミノ酸を代謝するD-アミノ酸オキシダーゼが存在しており、生合成されたD-セリンがこの酵素によって代謝されるためD-セリン濃度の増加が少なかったと思われる。また、大脳皮質におけるL-セリン濃度の変化が他の脳部位と比較して小さかった原因として、大脳皮質が脳室周囲に接していないためL-セリンの移行が悪かった可能性が考えられる。
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