これまで哺乳類における遊離型アミノ酸は、すべてL-体から構成されていると考えられてきた。しかし最近、哺乳類組織中に遊離型D-アスパラギン酸が機能している可能性がでてきた。そこで本研究では、D-アスパラギン酸とD-セリンの生合成経路を明らかにするため、これらD-アミノ酸の前駆物質と考えられるL-アスパラギン酸やL-セリンの腹腔内投与及び脳室内投与を行った。 1週令のラットにL-セリンを腹腔内投与し、6時間後の各組織でのD-セリン含量を測定したところ、大脳皮質・間脳・中脳・橋-延髄・小脳でコントロールと比較してそれぞれ2.4・1.8・1.7・1.8・2.1倍にD-セリン含量が増加した。さらに、肝臓・腎臓などの末梢組織においてもそれぞれ3.7・5.3倍に増加した。L-セリン脳室内投与によって、L-セリン濃度は大脳皮質を除く他の全ての脳部位で2時間後に最大値(約6-10倍)を示し、その後徐々に減少した。大脳皮質では、6時間後にL-セリン濃度が約2倍に増加し、その後減少した。また、D-セリン濃度は大脳皮質、線条体、海馬及び間脳において6時間後に最大値を示したが、橋-延髄及び小脳においては2時間後と早く、D-セリン濃度変化も他の脳部位に比べて少なかった。小脳及び橋-延髄には中静D-アミノ酸を代謝するD-アミノ酸オキシダーゼが存在しており、生合成されたD-セリンがこの酵素によって代謝されるためD-セリン濃度の増加が少なかったと思われる。以上の結果から、D-セリンは哺乳類組織中で生合成されており、その前駆物質はL-セリンである可能性が示唆された。 また、L-アスパラギン酸の腹腔内投与及び脳室内投与を同様な方法で行ったが、D-アスパラギン酸含量に変化はみられなかったことから、L-アスパラギン酸はD-アスパラギン酸の前駆物質ではないと思われる。
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