本研究の目標は、孤束核神経回路網におけるATP/P2X受容体を介した神経伝達の存在およびその役割を明らかにすることにある。新規設備備品・近赤外微分干渉システムを用い、ラット(1〜8週)脳幹スライス(300-500μm)内の神経細胞を可視化した上で約70の細胞からホールセル電流を記録し、下記三項目を検討した。 1.孤束核(NTS)および迷走神経背側運動核(DMX)神経細胞のATP誘発電流:ATP(30 μ-3 mM)は、調べたすべてのDMX神経細胞で、不活性化の遅い内向き電流とともに、高頻度の後シナプス内向き電流(EPSC)を誘発した。TTXによって前者は不変、後者は消失、CNQXは後者を一部抑制した.Cibacron blue 3GA(CB)はわずかに前者を抑制した。背側NTS内の小細胞はATP電流を示さなかった(7/7)。DMX内のP2X受容体発現神経細胞群が相互ネットワークを形成し、その全体の興奮性をATPが制御していることが示唆される。2.孤束刺激誘発EPSCに及ぼすP2X antagonistの影響:NTSおよびDMX神経細胞の膜電流記録下に孤束を電気刺激した。誘発EPSC中、CBあるいはsuraminによって抑制される成分が一部の細胞に見い出された一方、誘発EPSCはCNQX、AP5、bicucullineおよびstrychnineの潅流によってほぼ完全に消失した。ATP/P2X神経伝達が孤束→NTS→DMX系のいずれかの段階で機能している可能性が示された。3.自発性EPSCに及ぼすantagonistsの影響:自発性の高頻度EPSCを示すNTSおよびDMX細胞の中にはCNQX、AP5、bicucullineおよびstrychnineのいずれによっても抑制されない成分を示すものがあった。これがP2X受容体を介した成分であるか今後解析を続ける。
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