研究概要 |
神経接着分子Llの発現は細胞の種類・発達の時期により正確に制御されていることが知られている。Llは神経細胞やシュワン細胞に特異的に発現しているが、Llには2種類の選択的スプライシングが存在し、オリゴデンドロサイトにもLlが存在することが判明した。 ミエリン膜形成は未成熟オリゴデンドロサイトと未成熟神経細胞の軸索が出会うことから始まり絶縁体ができ神経活動を活発にするが、これまでミエリン膜形成の初期過程における分子機構解明のための手掛かりを得るような情報は少なかったことから、本研究ではオリゴデンドロサイトにおけるLlの機能を検討した。 オリゴデンドロサイトのプロジェニター細胞は胎生早期(E9,10)に脳室周囲の神経上皮細胞層に認められ妊娠経過に伴って脳内に広く分布し、生後の新生仔期から成熟期に至るまで白室と灰白室を含む脳の広い範囲に認められた。このプロジェニター細胞はさまざまな因子の影響下でin vitroで未成熟オリゴデンドロサイトへと分化誘導することが可能であり、このO4^+未成熟型オリゴデンドロサイトをさらにミエリン塩基性タンパク(MBP)の細胞内発現分布の違いによって初期O4^+未熟オリゴデンドロサイトと後期O4^+未熟オリゴデンドロサイトに分類した後にそれぞれRT-PCR法及びウェスタンブロット法によってLlの発現パターンの違いを調べた。初期O4^+未熟型ではL1のスプライシング型が発現しており、後期O4^+未熟型では全長型のLlが発現していた。さらに興味深いことに、後期O4^+未熟型ではmRNAとタンパクレベルでL1が増加していた。これらの結果は、後期O4^+未熟型オリゴデンドロサイトに発現する全長型のL1と軸索に発現している全長型のLlが互いにホモフィリックな結合を介してミエリン膜形成開始のシグナル伝達に関与している可能性を強く示唆した。
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