研究概要 |
1. 細胞内σ-1受容体を介した情報伝達機構 最近、σ-1受容体がクローニングされ、そのcDNAからσ-1受容体を構成するアミノ酸配列が明らかとなった。我々もσ-1受容体の発現クローニングをおこなったOocyteから調製した膜画分へのσ-1受容体選択的リガンドである[^3H]NE-100及び[^3H](+)ペンタゾシンの結合を測定した。σ-1受容体の膜貫通部位のSer99Ala.di-Leu105,106di-Ala変異により、リガンド結合能はほぼ消失した。さらに興味深いことには、σ-1受容体のTyr106Pheだけで、σ-1受容体のリガンド結合能は著しく抑制された。この速度論的解析より、これらのアミノ酸置換は結合親和性を低下させていることが明らかとなった(FEBSLett,445,19-22)。 2. チロシン水酸化酵素遺伝子の発現制御機構におけるV-1分子の機能的役割の解析 V-1分子を過剰発現するPC12D細胞株では、発現ベクターのみを導入したPC12D細胞株(対照株)と比べてカテコールアミン合成酵素であるチロシン水酸化酵素(TH)、ドーパ脱炭酸酵素及びドーパミンβ-水酸化酵素mRNAの発現量が増加し、カテコールアミン産生が著明に増大することを報告した(J.Biol.Chem.,273,27051-4)。現在までにカテコールアミン合成酵素をコードする遺伝子の発現調節機構については詳細に研究が進められ、c-junやCREBを含む転写因子がTHの転写の維持・促進に必須であることが判っている。そこで、V-1過剰発現株および対照株のc-junNH_2-terminal kinase(JNK)の発現量を調べた結果、total JNKの発現量はV-1過剰発現株と対照株との間で有意な変化は認められなかったが、リン酸化JNKの発現量はV-1過剰発現株では対照株と比較して増大していた。さらに、核抽出液中のリン酸化c-junの発現量は、V-1過剰発現株では対照株と比べて上昇していた。以上の結果と、V-1が核内に存在せず、細胞質において他の蛋白と複合体を形成していることから、V-1分子が、V-1結合タンパク質とのタンパク質問相互作用によってJNKが仲介するシグナル伝達系と共役し、c-junを介してTH遺伝子の転写を支配している可能性が考えられる。
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