先ず、ラット小脳初代培養細胞を用いガングリオシド発現の検出に関わる詳細な免疫蛍光手法について検討を加えた。具体的には、細胞特異的に発現するガングリオシドの特異抗体を用いた検出状態が可溶化剤処理により大きく影響されることを実証した。次に、ラット小脳初代培養細胞において細胞特異的に発現したガングリオシドの発現が、培養神経細胞株においてどう発現をしているかをP19とPC12を用いて検討した。その結果、両細胞株において未分化では、GD1bの発現がほとんど認められなかった。また、O-Ac-ジシアロガングリオシドの発現が認められた。一方、神経様細胞へと分化誘導させたP19およびPC12は、b経路ガングリオシド、特にGD1bの高発現が認められたが、O-Ac-ジシアロガングリオシドは全く消失していた。次に、発現糖脂質の改変による生物学的機能変化を検討する目的の前段階として抗体添加による細胞応答の解析を試みた。顆粒細胞とP19細胞において、抗GD1b抗体を培地に添加、さらにクロスリンカーを加えて観察したが、何れの調製時期、培養時期および濃度においても両細胞への影響は認められなかった。また、顆粒細胞とPC12のアポトーシスに対する抗GD1b抗体による抑制効果も認められなかった。最後に、免疫電子顕微鏡法にてGD1bを中心にガングリオシド抗原の局在を詳細に検討した。細胞はP19とPC12を用いた。その結果、GD1bの発現は未分化の両細胞株ではほとんど観察されなかったが、分化誘導した両細胞株の細胞膜上と細胞膜直下の電子密度の高い細胞内構造に観察された。細胞膜上でのGD1bの発現は、細胞体の細胞膜より神経突起のそれに多く分布した。また、細胞膜におけるGD1bの存在様式はクラスターの形成を示唆する金コロイドの集積がパッチ状となり、決して均一な分布を示さなかった。GD3の発現はGD1bの発現とは異なった。
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