遺伝学的手法を用いてシナプス形成の解析をすることを目指して、われわれは行動異常変異株の解析からstill life(sif)遺伝子を同定した。この遺伝子産物は、RhoファミリーGTPaseの一員であるRacを活性化するグアニンヌクレオチド交換因子であることがわかった。さらに興味深いことに、このSIFタンパク質はシナプス末端のアクティブゾーン周縁部の膜近傍に中枢シナプス、神経筋接合部において共に局在していることがわかった。今年度の目標は、このsif遺伝子の機能を理解するために、遺伝子機能を完全に欠損した突然変異株を分離しその表現型をシナプスにおいて解析することである。 化学変異誘起剤であるEMSで処理した約9000本の染色体を遺伝学的に調べた結果、10個以上の新しいsif変異が得られたことがわかった。これらの変異株に対してウェスタン解析と塩基配列解析を行った結果、2種の変異が遺伝子機能を完全に欠損したnull変異であると結論した。これらの変異は劣性致死とはならないが個体の活動性が著しく低下することがわかった。しかしながら、シナプスの形態には異常が検出されていない。 ひとつの可能性としては、中枢シナプスにおいてはSIFタンパク質はシナプスの構造的可塑性に関与しているのではないかとわれわれは考えており、synaptic arborizationが洗練化される際に活動性に依存してSIFタンパク質による制御が存在するのではないかという作業仮説をうちたてている。この検証のために、成虫脳の少数の神経細胞を軸索まで可視化するシステムを用いて、sif変異の効果を調べていこうと計画している。
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