皮質求心性線維が層特異的な枝分かれを形成する機構を明らかにする目的で、化学的に一旦固定した大脳皮質切片上で視床組織片を培養し、視床からの軸索伸長について調べた。この条件下では、拡散性分子の影響を排除して細胞膜表面あるいは細胞外マトリックスに存在する糖鎖やタンパク質などの分子の機能を解析できる。さらに、固定皮質切片に酵素処理を施すことによって軸索の枝分かれがどのように変化するかを調べることも可能である。 その結果、視床軸索は固定皮質切片上においても標的である4層で特異的に枝分かれを形成することが分かった。次にノイラミニダーゼ、コンドロイチナーゼ、ヘパリチナーゼ、PI-PLCなど細胞膜表面や細胞外マトリックスの環境に変化を与える酵素で皮質切片をあらかじめ処理してから視床との培養を行った。ヘパリチナーゼやPI-PLC処理では未処理のものと比較して枝分かれの層分布にほとんど変化がみられなかったのに対し、ノイラミニダーゼおよびコンドロイチナーゼ処理を施したものにおいては枝分かれの標的層特異性が若干弱まった。またノイラミニダーゼ処理によって分枝の数、中でも20μm以下の細かい分枝の数が有意に増加した。 これらの結果から、層特異的な膜結合型の因子が枝分かれの形成を担っていること、ならびにノイラミニダーゼによって除去されるシアル酸の成分とコンドロイチナーゼによって処理されるコンドロイチン硫酸が、標的層以外で軸索の分枝形成を抑制することによって層特異的な枝分かれの形成に貢献している可能性が示唆された。
|