研究概要 |
我々の以前の研究で、一酸化窒素(NO)供与体を妊娠後期のラットの脳室に投与すると、分娩と母性行動の開始を抑制することが明らかになっている。本研究はこの時の脳組織におけるNO活性(NADPH diaphorase)を再度詳細に調べることから開始した。その結果、視床下部-下垂体後葉系とは逆に、下垂体前葉においては分娩時にNO活性が亢進していることを見出し報告した(NeuroReport 8:817-821,1997)。下垂体前葉におけるNOの作用を検討する目的で、NO合成酵素をimmunohistochemistoryとNADPH diaphorase活性を検出する組織化学法で調べたところ、NO合成酵素を発現する細胞のなかには、下垂体前葉の毛細血管に接触しているものがあり、下垂体前葉細胞へ流入する血流量の調節に関与していることを示唆する結果を得て、報告した(Brain Research 784:337-340,1997)。またNOの中枢神経系での作用機構を解明する目的で、NO供与体を投与して、射乳反射を抑制したラットの視床下部室傍核、視索上核、弓状核-正中隆起部の神経活動の指標であるFOS活性が抑制されていることを見出した。NOはこれらの神経核において神経の興奮性を調節して、分娩に関与する下垂体ホルモンの分泌、母性行動発現に関与する神経活動に影響を与えるものと考えられる(Neuro Report,およびBrain Research印刷中)。今後は視床下部の諸核におけるNO発現量を定量する方法を開発し、この研究課題の究明を進めたい。
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