平成9年度まで、猿の追跡性眼球運動の適応の動特性を解析するとともに、微小電極法を用いて、数頭の猿から、追跡眼球運動に関係する神経活動を記録し、片葉と傍片葉で比較した。猿にステップ-ランプ状に動く視標を追跡させた時、視標が動き始めてから100m秒位でslow speedの眼球運動が立ち上がり4度/秒位の定常状態の速度に40m秒位に達したのち、小さなサッケード眼球運動が生じた。このサッケード眼球運動の終了後ただちに最大速度8度/秒位の一定速度のslow speedの眼球運動が生じ、視標が消えた後100m秒位まで持続した。サッケード眼球運動の開始直後に視標の速度に10m〜200m秒の間、視標の速度を増加ないし減少させると、追跡眼球運動に適応が生じ、サッケード眼球運動の終了後に生じる一定速度のslow speedの眼球運動の速度に10分程度の試行で適応が生じた。しかしながら、100m秒位の潜時で立ち上がり40m秒位での定常状態の速度に達する追跡眼球運動には適応は、全く見られなかった。さらに、サッケードの直後に生じる追跡眼球運動に適応が生じる際に、若干ではあるが有意な変化がサッケード眼球運動にも生じ、サッケードの振幅と、潜時がともに大きくなることが明らかになった。このことは、追跡眼球運動に早く出現するものと、遅く出現するものがあり、かつ、早い方がまず働いて、眼球を視標の速さに対して半分位の速度まで加速し、さらに遅い方が出現することにより、視標の速さにほぼ相当するまで加速することを示唆している。また適応が生じるのは遅い方の成分らしいということが明らかになった。微小電極を用いて片葉と傍片葉から500個位のPurkinje細胞の活動を記録したが、追跡眼球運動の適応に関係した活動は傍片葉に認められたが、片葉には見られなかった。
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