猿の追跡性眼球運動の適応の動特性を解析するとともに、微小電極法を用いて、数頭の猿から追跡眼球運動に関係する神経活動を記録し、特徴を片葉と傍片葉で比較した。猿にステップ-ランプ状に動く視標を追跡させた時、視標が動き始めてから100m秒位でslow speedの眼球運動が生じ4°/秒位の定常状態の速度に達したのち、小さなサッケード眼球運動が生じた。このサッケード眼球運動終了後ただちに最大速度8°/秒位の一定速度の滑動性追跡眼球運動が起こった。サッケード眼球運動の開始直後に、視標の速度を短期間、増加ないし減少させると、追跡眼球運動の眼球運動の速度には、速やかに(10分程度の試行)適応が生じた。同時に、サッケード眼球運動にも適応が生じ、サッケードの振幅と、潜時がともに大きくなることが明らかになった。さらに、微小電極を用いて片葉と傍片葉のPurkinje細胞の発射活動を記録したが、追跡眼球運動の適応に関係した活動は確かに傍片葉には認められたが、片葉には見られなかった。これらの所見から、傍片葉が追跡眼球運動の適応に強く関与していることが示唆された。また小脳の神経伝達可塑性である長期抑圧(LTD)が、追跡眼球運動の適応時に見られる傍片葉の神経活動に関与するか、即ち追跡眼球運動の適応の原因となる可能性があるかを、長期抑圧を特異的に阻止することが知られている薬物(NO吸収剤やNOS阻害剤)を傍片葉に局所投与し検討した。これらの薬物投与により追跡眼球運動の適応に影響がでることを確認した。
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