本研究は、ニホンウズラを材料として、鳴きという行動がホルモンの働きによって変わることから、鳴き中枢の神経核のニューロンのホルモン受容体を明らかにすることを目的とする。ニホンウズラの幼鳥の雌雄とも仲間から離れると、ディストレス・コール(distress call)と呼ばれる鳴きを発声する。この鳴き声はコンピューターにより完全に音声分析が出来るので、鳴き行動と、それを発現する鳴き中枢の活動をモニターするのに格好の指標である。幼鳥にテストステロンを投与すると、きわめて短時間にdistress callが幼鳥独特の鳴き(chick crowing)に代わる。このホルモンを鳴きの中枢である中脳ICO核に投与すると、1時間以内に行動が代わる。このことはこれまで言われていたホルモンのニューロン核における遺伝的作用でなくて、非遺伝的作用であると考えられる。ICO核は電気生理学的方法によって鳴きのセンターの一つであることは確認されている。そこで、ICO核のニューロンについて、生化学的解析を行い、テストステロン受容体タンパク質の抽出・同定を行った。ICO核を取り出してホモジナイズして、いくつかの分画に分け、テストステロンと特異的に結合するタンパク質を調べた。タンパク質は分子量約45Kダルトンで、テストステロンや5α-DHTとは特異的に結合するがエストラジオールやコレステロールでは結合しない。この発見は世界で最初であり、中枢の神経細胞にテストステロン受容体があって、テストステロンの作用によって行動の変換が生ずることを証明したものである。
|