ゴナドトロピン放出ホルモンは脊椎動物において生殖機能を制御する中心的ペプチドホルモンである。進化の過程でGnRHペプチドは遺伝子複製や構造上の変化を遂げ、多様型を持つようになった。哺乳類やヒトを含め脊椎動物においてそれぞれの脳内には1種類以上のGnRHが存在する。数種の硬骨魚においては3種類のGnRH遺伝子の発現が明らかになっており、それらは終神経系(salmon-GnRH)、視索前野(seabream GnRH)および中脳(chicken GnRH II)に分布している。硬骨魚類であるテラピアOrechromis niloticusにおいて、我々はそれらの一次構造の決定とそれぞれの異なる分子種をもつGnRH陽性ニューロンの発生起源が異なることを明らかにした。そこでこれら3種類のGnRH分子が異なる機能を持ち、また異なる制御機構を有することが示唆され、本研究においてはテラピアにおける部位特異的に発現するゴナドトロピン放出ホルモン遺伝子の制御機構の解明を試みた。 我々はテラビアGnRH cDNAシークエンスより特異的なGnRH mRNAプローブを作成し、テラピア脳内におけるGnRHの局在に成功した。本研究においては放射線標識による低量In situ hybridization法にて精巣摘出、ステロイドホルモン投与による脳内の終神経系、視索前野および中脳におけるGnRHmRNA発現への効果を検討した。終神経系のGnRHニューロンはテストステロンにより促進され、甲状腺ホルモンにより抑制された。視索前野GnRHニューロンはエストロゲン、テストステロンによる作用を受け、ケトテストステロン(非芳香剤アンドロゲンの一種)による効果はなかった。中脳GnRHニューロンは全くステロイドホルモンの影響を受けなかったことから中脳GnRHニューロンを制御する未知因子の存在の可能性が考えられた。よって本研究において終神経系のGnRHニューロンと視索前野GnRHニューロンはエストロゲン系代謝産物による制御を受けていることを明らかにした。
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