研究概要 |
ラットの中隔外側部には雌特有の性行動パターンであるロードーシスと勧誘行動に対する抑制力が存在する.一方,中脳の背側縫線核のセロトニン神経がやはり雌性行動に対し抑制力を持つ。雄ラットは大量のエストロゲンを投与されても雌の性行動の発現は弱いが、その原因はこの二つの抑制力が強いためと考えられる。本研究では抑制機構に対して神経内分泌学的解析を行い次のような結果を得た。 (1)雌雌ラットの背側縫線核の前腹側部を切断するとロードーシスが強くみられることから、抑制力は背側縫線核前腹側部の出力神経線維により前脳にもたらされる。(2)雄ラットを用いて、中隔の下行性線維と縫線核セロトニン神経の上行性線維が通る内側前脳束の切断を行うと、雌ラットと同じレベルのロードーシスを示すようになることから、内側前脳束は雌性行動の抑制力の通過部位として重要である。(3)中隔と背側縫線核の抑制力に対するエストロゲンの影響を調べるため、エストロゲンを直接それらの部位に投与した結果、雌ラットの中隔に植えた場合はロードーシスの昂進が見られたが、背側縫線核に植えた場合は効果がみられなかった。これは、中隔の抑制力はエストロゲンによって直接解除されるが、背側縫線核の抑制力は直接解除されない可能性を示すものである。また、雄ラットの中隔にも直接エストロゲンを投与したが、ロードーシス促進効果がみられなかった。従って、雄ラットにおけるロードーシスの発現が低いのは、中隔の抑制系がエストロゲンによって解除できない仕組みになっているためである。
|