哺乳類の大脳皮質は運動野、視覚野、聴覚野など多くの機能的領野に分かれており、各々の領野は特徴的な細胞構築、神経細胞間結合を有している。これらの機能的、構造的違いを遺伝子発現パターンのレベルで明らかにすべく、旧世界ザルの大脳皮質の領野特異的に発現している検索を試みた。細胞構築の最も大きくことなる一次運動野(Brodmennの4野)、一次視覚野(17野)を比較することが遺伝子発現の差を見つけるのに適していると思われたのでこれを行った。 カニクイザルの大脳皮質の4野、17野を採取、RNAを調整しpoly(A)^+RNAからcDNAを合成した。以下の2つの方法で特異的発現パターンを示すcDNAを探した。 1)Suppression Subtractive Hybridization(SSH)法 Diachenko et al.(1996)PNAS93:6025-6030によって開発されたSSH法によって4野、17野間で差のあるクローンの単離を試みたが、現在までそのようなクローンは得られていない。種々のコントロール実験は成功しているのでSSH法の手法は問題なく確立されていると考えられるが、今だにこの方法で特異的な遺伝子が見つからないところから、4野と17野でall or noneで発現している遺伝子はほとんど存在しないか、非常に微量にしか存在しないためクローンを得ることが非常に難しいと考えている。 2)Serial Analysis of Gene Expression(SAGE)法 Velculescu et al.(1995)Science270:484-487によって報告さたSAGE法はcDNAの特定の一部分を網羅的にシークエンスする方法で、2つの領野間で発現が量的に異なっている遺伝子を検索するのに優れている。(all or noneで発現しているものでなくても見つけることができる。)昨年度から4野、17野から各々1500クローンずつをシークエンスし比較した。統計的に信頼性のあるデータを得るためには最低でもこの10倍程度のシークエンスデータを得る必要があると考えられるが、技術的問題があり方法の改良を含めて再検討中である。
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