シナプス形成に関与する新たな遺伝子の同定のため、シナプス再生を惹起するために 1.神経毒を成獣に投与し、小脳プルキンエ細胞への入力の一つである登上線維を選択的に遮断した。このラットと正常ラット脳より調製したmRNAを使いたサブトラクションクローニングを行い、未知のものを含む数種類の遺伝子を得た。次にin situハイブリダイゼーションで組織での発現の確認とノーザンブロットにより、神経毒を投与した小脳RNAと正常の小脳RNAとの発現量の比較を行った。その結果、正常ラットと薬剤を投与したラットの小脳での転写産物間の有意な変化を認めることができなかった。 次に、材料をより均一な条件を作れるラット新生児の海馬初代培養細胞に変更し、神経活動に伴い変化する遺伝子を探すことで、プルキンエ細胞を含めたシナプス伝達増強に関わる蛋白の同定を試みた。 2.NMDA型グルタミン酸受容体作動薬NMDAの投与前後の培養細胞からmRNAを調製し、サブトラクションを行った。得られたサブトラクション産物をプローブに用い、ラット脳ライブラリーをスクリーニングし数個のクローンを得た。 3.神経細胞に転写産物が発現することを確認するためにRNAプローブを作成し、in situハイブリダイゼーションを行った。一つのクローンで神経細胞に転写産物が発現することを確認した。このクローンは核酸配列から、細胞骨格蛋白質及び神経伝達物質受容体双方に関連する蛋白質、SAP97であることが分かった。 この実験により細胞骨格蛋白質及び神経伝達物質受容体の相互に結合するPSD蛋白の一つであるSAP97が、NMDA型グルタミン酸受容体の刺激で、転写産物のレベルで増加することが証明された。これにより、記憶に関連する分子でもっとも注目を集めているNMDA型グルタミン酸受容体の記憶増強作用(シナプス強化)のメカニズムの一端が、PSD蛋白の増加による可能性が明らかにされたこととなる。
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