研究概要 |
滑動性眼球運動は前庭系と干渉を起こして視線運動に関わる。視線運動は最終的に眼筋の運動信号に変換されて運動効果を発現する。本研究では小脳片葉・傍片葉と虫部が視線運動の形成と眼球運動への変換にどのような役割分担を担うかを、日本サルを用いて調べた。小脳片葉・傍片葉のプルキンエ(P)細胞70個を記録した。最適応答方向は水平(n=12)或いは垂直(n=58)にほぼ分かれていた。58個の垂直P細胞のうち、視線速度信号を担うP細胞の条件を満足した細胞はわずか19%(n=11)であった。他は眼球運動信号とともに前庭入力を受けたが、その受け方から2種類に大別出来た。一つは垂直pitch回転で視線のみを動かす課題で応答したP細胞で、他はこの課題では応答しなかったが、垂直回転による視線運動をpitch以外の回転平面で行った時には応答した。それぞれを、垂直眼球・頭部速度P細胞(n=28,48%)、Off pitch axis眼球・頭部速度P細胞と名付けた(n=19,33%)。垂直回転をpitch平面以外の種々の平面で与え、最適応答方向を調べると、垂直視線速度P細胞と垂直眼球・頭部速度P細胞の中で眼球運動と視線運動に対する応答方向が同一の細胞は、pitch方向に最適応答方向を示したのに対し、その他の細胞は垂直半規管平面からroll平面に分布した。これら3群の垂直P細胞の滑動性眼球運動に対する応答には、有意差が見られなかったので、前庭系との干渉課題でのこのような応答の差は、前庭入力によると結論される。小脳虫部で滑動性眼球運動に応答した70個のP細胞では、小脳片葉・傍片葉とは異なり、水平あるいは垂直に最適方向を持つ細胞のほかに、斜め方向に最適方向を持つP細胞が多数記録され、これら細胞の多数は視線運動にも応答した。以上の結果は、虫部では効果器である眼筋に対応した垂直水平の信号分割がまだ行われていないP細胞を多数含むことを示し、小脳片葉・傍片葉と虫部領域が担う役割の違いを示唆する。
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